BMW525i|カーライフ

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BMW525i

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「自分が50歳になったら地元である愛知県知多郡の豊浜で魚を扱う仕事をしよう」。
そう考えていた山下哲一郎さんが飲食店をオープンさせたのが平成13年7月のこと。以来、今年でお店は8年目を迎える。
自分が生まれ育った場所の近海で獲れる魚に自信を持ち、そして最高の素材と妥協せずに向き合うこと。
まっすぐな生き方をする男の隣には、BMW 525iが静かに寄り添っている。
どこの漁港の市場もおそらくそうであるように、豊浜漁港の市場も早朝から活気に包まれる。
毎朝、5時30分。市場には山下さんの姿がある。大切な競り(せり)が始まるからだ。 漁を終えて豊浜港へと戻ってきた漁船から、次々と水揚げされた魚が市場に並べられていく。
入札を希望する買い手が集い、その仲介役となる仲買人の姿も見え始めた。
活気ある声が市場に響き渡る。競りのスタートは、同時に山下さんの
一日のスタートをも告げることになる。

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競りの場では、山下さんは仲買人を通して魚を仕入れることになる。
お客さんからの予約の状況、旬などに応じて仕入れたいものはもちろん変わってくる。
定価がないからこそ「競り」は難しい。基準になる定価があれば別だが、1隻の船だけではなく何隻もの船のその日の漁獲量や買い手次第で、魚の値段は青天井で上昇する場合もある。
今日は100円だった魚が明日になると500円になっていたりすることもザラだ。
「どうしても食べたいという気持ちを持った個人であれば、いくらで競り落とそうが
何の問題もないんだけど、そうはいかないよ、商売だから。お客さんの予算の範囲内で納得してもらえるものを出さないといけないから」。
山下さんのお店に訪れるお客さんの8割は地元の人たちだ。つまり、魚の味を知る舌の肥えた人たちが多い。
そしてそんな人たちは、魚の相場を知っている。だからこそ予約時にお客さんが「食べたいから」と言っても、相場以上の値段で買うことはできない。
買いたい魚ではあるが、競りをこれ以上続けるかどうか…。
その判断は、山下さんはもちろん仲買人にも求められる。仲買人は、値段が釣り上がれば引くことも大事。
競りは一瞬で終わる場合もある。競りひとつ取っても、山下さんと仲買人の信頼関係がなければ競りを続けて、さらに良い魚を仕入れることはできないのだ。
山下さんが「憧れていた」という525i。距離を重ねるごとにドライバーとの信頼関係を増していくこのクルマも、さすがに山下さんと仲買人との信頼関係には嫉妬を憶えているのかも知れない。

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知人の漁船に立つ山下さん。「周りにあるのはぜ〜んぶ知ってる人の船だからさ」と話す。
「お前も魚の仕事をやれよって、昔っから言われてたよ。仲買人もそうだし、この辺の連中はみんな友だちみたいなもんだから。そういう風に言われ続けていていたし、50歳を転機に違うことをやってみようと思ったんだよ」。
豊浜港に停泊する漁船は、各船により漁法が異なる。たとえば、いま山下さんが佇む船は二艘引き(にそうびき)、豊浜ではバッチ網漁とも言われる漁法を取り入れている。
「二艘引きは二つの船で網を引っ張る漁法のこと。いま立っているこの船だと、さらにもう1つの船が獲った魚の運搬用に待機しているから、一度の漁で三つの船が動くことになるわけだよ」。
魚の種類や獲れる量のこともあり、山下さんのようなあくまで一つの商店主が買うのは、豊浜港において二艘引きと並んで多い漁法である底引き網漁で獲れた魚になる。

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BMWのミドルクラスに位置付けられるこのセダンはアスファルトだらけの街並だけでなく、山下さんが過ごしてきた海の見えるこの町の風景にも馴染んでいる。市場へこのクルマで出掛けるワケにはいかないから、BMWと山下さんとの付き合いはもっぱら休日に限定されることになる。
エキゾーストノートの間を縫って潮騒が耳をくすぐる海岸線、内陸部にいけば適度にアップダウンのある山間を抜けるロード。手つかずの自然が残り、なおかつ魅力的なドライブコースが点在する知多半島だからこそ、向き合う時間は短くてもBMWとの時間はとても濃密なものとなる。

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仕入れには、こんなこだわりがある。
「養殖ものは仕入れないし、うちでこだわってやってることは“生きた魚”だけを仕入れること」。
「刺身に煮物に、そして焼いてと、いろんな手法でお客さんに提供できる。だから生きた状態で仕入れることにこだわってるんですよ」。
生け簀へと移された魚は、お客さんの予約時間の少し前にさばいて供されることになる。
こうした方が抜群に旨いのだ。
「〆めた魚を市場で買えば、今買っている生きた魚の三分の一ほどの値段で買えるよ。けど違うんだよ味が。もうねそれは明確に違うよ。やっぱりお客さんには美味しいものを食べて貰いたいから、妥協はできないということ」。
だが、生きた魚を買うことによるリスクもある。
「たとえば10匹単位で魚を買って生け簀に入れておいたとする。だけど翌日にその中の何匹かが死んでしまうことだってある。魚はデリケートだから、網で海から引き上げられただけで弱ってしまうんだよ。もちろん生け簀で死んでしまった魚を出すことはしない。一度に何匹を生け簀に入れなきゃいけないかまで考えないといけないんだから、仕入れは本当に難しいよね」。
生きた魚であれば好みに応じていろんな形で提供できる。頭から尻尾まで、全てを余すことなく調理することができる。山下さんから魚に対する思いと、料理人としてのプライドが滲み出ていた。

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撮影協力:海鮮香房 かぶらや
「お店をはじめた当初は、やっぱりお客さんが大事だからいろいろと合わせてたよ。閉店時間を過ぎてもお店をずっと開けていたりとか、そんなことしょっちゅう。深夜まで店を開けて、5時30分から市場なんだから、身体も大変だよ。今でもお客さんが大切なことに変わりないけれど、出来ないことは出来ないと言えるようにはなった」。

お店に来るお客さんが変わったのだろうか? それとも山下さんが変わった?

「常連さんが増えたから、自分の意識も変わったんじゃないかな。たとえば、普通に買えば一匹で1500円や2000円ぐらいする魚を3,000円のコースメニューの中の一品として出してあげることもある。お客さんは地元の人が多いから相場がある程度わかっている。そうすると、この値段でここまでのものを出してくれるんだって思ってくれる。そこで初めて、お店とお客さんとの間に信頼関係ができるんだよね。そうすれば、次に来た時は食べたいものや好みだけ伝えてくれて、『あとはお任せするよ』って言ってくれる。そういう関係をたくさんの人と築けたということじゃないかな」。

明確な区切りを持って歩んでいるように見える山下さん。
「自分も50歳でお店を…って考えてて、いつかはBMWとも思ってた。それまではずーっと国産だったから、輸入車への憧れもあった。年齢ごとに区切りを設けて進むのも悪くないんじゃないかな」。
いつかは訪れるであろう転機。山下さんは自らそれを設定し、進んで転機としてきた。そしてこれからの歩みはきっと、525iとそして素晴らしい信頼関係を築いてきた人々と一緒に歩むことになるのだろう。

Photographs by Noriyuki Washizu Text by Eiji Kito Creative Direction & Art Direction by Akihiro Imao

 

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