BMW X3|カーライフ

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愛知県瀬戸市。中でも品野地区は瀬戸焼きで知られるこのエリアの中でも、今も多くの窯元が火を灯し続けている場所である。品野地区にある窯元の中のひとつ「里楽窯(りらくがま)」は、伊里淳也さんが代表を務める窯だ。伊里さんは窯業(ようぎょう)と農業をこの地で営みながら、娘さんと息子さん、そして奥様の4人で生活している。緑溢れるこの地は、まるで宮崎アニメのワンシーンを思わせる「日本の原風景」という言葉がピッタリ。夜になると「猫バス」が停まりそうなバス停留所のそばではしゃぐ娘さんは、さながら伊里さんにとっての「お姫さま」だ。
伊里さんと、そんな“お姫さま”を中心に、この地を舞台に日夜繰り広げられている物語。物語のあらすじは「窯業」と「農業」に沿って展開されていく。そしてこの二つを結び付けるキーワードは「土」。そして土を用いて「無」から「有」を生み出すこと。

父親が窯業を営んでいたこともあり、自然と「自分もいつかは窯を継ぐんだ」と小さい頃から考えていたという伊里さん。「だからこの道にも自然と入っていけたんですよね。別の商売をしていたとしても、その道を自然と受け入れていたと思う。それほど小さい頃からあまりにも父親の仕事というものが身近にあったんですよ」と笑う。瀬戸市にある窯業高校などを経て、22歳でこの道へ。誰にも師事せず家業を継ぎ二代目となった伊里さんは、「自分は陶芸家ではなく、あくまでクリエーターなんです。これは決して陶芸家と言われる人を卑下している訳でもありません。焼き物はもっとみんなにとって身近にあるものだと思うんです。だから先生ではなく、モノを作っていろんな人に届けるクリエーターでありたいと考えているんです」と話してくれた。

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撮影協力:(有)伊里製陶/里楽窯
陶芸家ではなくクリエーター。そう自分を呼ぶようになった転機はなんだったのだろうか。
多くの窯がそうであるように、伊里さんの窯でも父親の代の頃から機械による大量生産が主流だった。作るものは業務用食器だ。オーダーが入れば1度の生産で1,000個単位の器を作ることもザラだった。
「今から8〜9年前に土を変えて、器を焼いたことがありました。土を変えた理由は、一人のお客さんに向けた器を焼いてみたい。それだけでした」。
土を変えて焼いた思い出の器は今も手元に残っている。
もちろん大量生産はオーダーがあれば現在も行っているが、伊里さんがクリエーターとして、一人のお客さんに向けた器作りを意識し出したのは、そこがスタートラインということになる。
「業務用食器を作るための土は強度が強いんです。高い耐久性を持っている。わかりやすく言うと陶磁器と呼ばれるものです。変わって1つずつ轆轤(ろくろ)を挽いて作るものを『陶器』といいます。陶磁器に比べれば、もちろん割れやすいということになりますね。手で軽く叩いてみると、反響する音の違いは明確ですよ。陶器は音も手触りも、土ならではの優しさやあったかさがある。伊里さんは、作った器に、このあったかさも込めてお客さんに届けたいと考えている。

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里楽窯ではサイトから予約可能な陶芸体験も実施している。「一人ひとり、ろくろを挽いて作ってもらうのですが、その際に特に時間制限は設けていないんです。お客さんが納得してくれるまで、ろくろと土と向き合ってもらえればいいと考えています。時間をかけたからといって満足できるものが作れるわけではないし、とことんお客さんが納得するまで取り組んでもらえればいい」。
また、伊里さんは必ずお客さんにこんな質問をするという。
「『いくなら売りますか?』とお客さんに聞くんです。そうするとお客さんは『自分が作ったものだから、この世に一つしかない。だから値段はつけれないし売れないですねぇ』と言われます。たとえば、今は100円均一のショップで器が平気で売られている時代じゃないですか。けど、器をこうやって時間をかけて作ることもできる。店頭で並べられているものと、自分がろくろをまわして作ったものとは、何がどう違うのか。そういうことを少しでも考えてもらえれば、それだけでも嬉しいんです」。
では、伊里さんがろくろを挽く時、どういった思いを込めているのだろうか?
「丸い器はなるべく丸く見せたいし、フォルムを崩さないように焼き上げたいと思います。たとえばクルマは機械の塊で冷たい印象があるけれど、それでもずっとそのフォルムを見ていると造っているひとの意志が見えてくる時がある。昔からクルマ自体は好きで、常に興味の対象ではあるんですよね。窯で器を焼いているクリエーターというよりも、一人のクルマ好きの意見かも知れないですね(笑)」

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5月上旬のG.W.から秋口まで、伊里さんにとって、もうひとつの仕事が始まる。お米作りだ。
「これも親父がやっていたものですが、二反の田んぼがあるんです。繁忙期はとにかく人手がいるから、僕も小さい頃は苗箱を運んだりと手伝いはしていたんですけど、自分でやるまでお米作りはしたことなんてなかったですから。最初は試行錯誤しましたね」。
その年の天候に左右されるものの、それでも稲刈りの時期になると、田んぼは黄金色の実を付けた稲が、まさに頭を垂れる光景が見られる。
小さい頃の伊里さんがそうであったように、お米作りは4歳と1歳の子ども達にとっても、いろんな変化を持たらせてくれた。
「外食してもお米を残さないようなりましたし、新米を食べたら『美味しい』と娘が言ってくれるんです。食べ物のありがたさを教えることも、親の大切な教育だと思ってますから」。
そして、伊里さん自身にも、こんな効果があった。
「田んぼがあることで、自分の親より上の世代とお米の作り方などでコミュニケーションが取れるんです。朝・晩に行う田んぼの水の確認だったり、苗の植え方だったり。今まであまり共通の話題がなかった世代から、いろんなことを教えてもらえる。自分にとっても勉強です」。

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秋になればやがて迎える収穫の時期。出荷するほど大量に作っているわけではないので、伊里さんが作ったお米はまた一年をかけて食卓に並ぶことになる。天候などいろんな要因を経て作られるお米。一番最初に新米を伊里さんの家のお姫様が食べる瞬間は、いつだってドキドキもの。家族みんなで作ったお米だから、きっと美味しいに決まってる。けれど気になる、果たして今年のお米の善し悪しは?

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里楽窯には、大きな窯が二つある。器作りにおいて大きな工程となる「焼き」は、窯に種火で火を入れるところから始まる。
「子どもたちにも話しているんです。『器はいつか割れるんだよ』と。そして割れることは、まったく悪いことじゃないと思います」。
自分が焼いた作品でさえも、割れることは問題じゃないと話す伊里さんの考えは、なるほど作家先生のそれではなく、クリエーター的考えと言える。その考えは「さらに良い作品を、再び自分の手で生み出せばいい」というクリエーターらしいポジティブな思考に支えられている。
「僕はみんなの「お庭焼き」になりたいんです。昔、器が殿様への献上品であったころ、殿様や偉いお侍さんは気に入った窯焼きの職人を庭に住まわせて自分だけのために器を焼かせていたそうです。贅沢なことですよね(笑)。だから、僕は皆さんにとっての「お庭焼き」のような存在になりたいと考えてます。割れてもいいんです、でももう一度、僕に注文してもらえたら嬉しいです。そして食卓を伊里さんの器でいっぱいに出来たらいい、と誰かに言ってもらえたらこれ以上の喜びはないでしょう。」

Photographs by Takuya Ito Text by Eiji Kito Creative Direction & Art Direction by Akihiro Imao

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