ブレーキマスターシリンダーの故障で現れる症状は?修理の時期や費用も解説

突然ブレーキの効きが悪くなったり、ペダルが異常に沈み込んだりした経験はないでしょうか。こうした症状はブレーキマスターシリンダーの故障の可能性があり、放置すれば重大な事故につながる危険性をはらんでいます。
車の安全装置の中でも特に重要な、ブレーキシステムの心臓部ともいえるのがマスターシリンダーです。本記事では、マスターシリンダーの故障で出現する症状や修理について、知っておきたい情報を解説します。
※目次※
5.ブレーキマスターシリンダーの故障で車が止まらない場合の対処法
・ブレーキマスターシリンダーはブレーキペダルの力を油圧に変換して各車輪に伝える重要な部品。
・故障の症状として、ペダルの沈み込みや制動力の低下、警告灯の点灯、フルードの漏れや汚れが現れる。
・ブレーキマスターシリンダーの不具合が見つかった場合は、放置せず速やかに修理を依頼する必要がある。
ブレーキマスターシリンダーとは?

車の安全性を支える重要な装置のひとつがブレーキシステムです。その中核を担うブレーキマスターシリンダーは、ドライバーがペダルを踏む力を各車輪へ伝達する精密な部品ですが、故障すると深刻な症状が現れる可能性があります。
ブレーキマスターシリンダーがどのような役割を果たしているのか、その基本的な仕組みから詳しく見ていきましょう。
ブレーキの仕組み
自動車のブレーキは、運動エネルギーを摩擦熱に変換して車を止める重要な安全装置です。ドライバーがブレーキペダルを踏むと、その力がブレーキブースター(倍力装置)によって大きく増幅されます。
この増幅された力は、マスターシリンダーによって油圧(液圧)に変換され、ブレーキフルードと呼ばれる専用の液体を通じて各車輪のブレーキに伝達される仕組みです。
ブレーキフルードには厳しい条件が求められます。というのも、摩擦による高温でも沸騰せず、低温でも凍結しない性質が必要だからです。また、圧縮しにくい特性により、ペダルの踏力を車輪まで伝える役割を果たします。
各車輪では、ディスクブレーキの場合はブレーキパッドがディスクローターを挟み込み、ドラムブレーキの場合はブレーキライニングがドラム内側に押し付けられることで、制動力が発生します。この一連の流れにより、確実な制動が実現されているのです。
ブレーキマスターシリンダーの役割
ブレーキマスターシリンダーは、ドライバーがブレーキペダルを踏む力を油圧に変換し、各車輪のブレーキ機構へと伝達する役割を担う装置です。
エンジンルーム内のファイアウォール(隔壁)に固定されており、上部にはブレーキフルードを貯蔵するリザーバータンクが備わっています。内部には精密なピストンとゴムシールが組み込まれ、ペダルからの機械的な力を液圧に変換する仕組みです。
ブレーキペダルが踏まれると、マスターシリンダー内のピストンが押し込まれ、密閉されたシリンダー内のブレーキフルードに圧力が加わります。この圧力は配管を通じて各車輪のブレーキキャリパーやホイールシリンダーに伝達され、最終的にブレーキパッドやライニングを作動させます。
ブレーキマスターシリンダーの故障の原因
ブレーキマスターシリンダーの故障の原因は、いくつかの要因によって発生します。最も多い原因が、内部のゴムシールやピストンの経年劣化です。摺動を繰り返すことで摩耗粉(スラッジ)が蓄積し、ゴムカップが傷付くことでフルードの漏れが発生します。
また、ブレーキフルードには吸湿性があり、時間の経過とともに水分を吸収して劣化します。汚染されたフルードは内部にさびを生じさせ、シールの劣化を加速させるのです。
頻繁な急ブレーキや山道での連続制動といった過酷な使用環境下では、マスターシリンダー内部の温度が上昇し、ゴム部品の劣化が早まります。
ブレーキマスターシリンダーが故障した際の症状は?

ブレーキマスターシリンダーが故障すると現れる症状は、初期の軽微なものから緊急事態を招く深刻なものまで多様です。これらの症状を正しく理解することで、重大な事故を未然に防げる可能性が高まります。具体的にどのような症状が現れるのか、詳しく解説します。
【症状1】ブレーキペダルが奥まで入る
ブレーキペダルが通常よりも深く沈み込む、床まで踏み抜けてしまうといった症状は、マスターシリンダーの故障を示す典型的なサインです。この現象の主な原因は、シリンダー内部のゴムシールの劣化による内部リークと考えられます。
正常な状態では、ペダルを踏むとピストンがブレーキフルードに圧力をかけ、その圧力が各車輪のブレーキに伝わります。しかしゴムシールが劣化すると、本来キャリパーに送られるブレーキフルードがピストン周辺から漏れ、必要な油圧を発生できません。
この状態では、ペダルがスポンジのような感触になり、通常の2倍以上深く踏み込まないと制動力が得られません。最悪の場合、ペダルが床まで沈み込んでブレーキがまったく効かなくなる危険性もあります。
【症状2】ブレーキの効きが悪い
ブレーキの効きが悪いという症状は、マスターシリンダー故障による制動力の段階的な低下を示す重要なサインです。マスターシリンダーの内部の不具合により、フロントまたはリヤブレーキの一方のみが正常に機能しなくなることが原因で発生します。
通常時と比べて制動距離が延び、ブレーキペダルを強く踏んでも思うように減速できない状態が続くでしょう。特に危険なのは、緊急ブレーキが必要な場面での制動不足です。車両の停止距離が大幅に伸びるため、追突事故のリスクが格段に高まります。
症状の進行過程としては、まず軽微な効き不良から始まり、徐々にペダルの踏み応えが軽くなっていきます。最終的には完全にブレーキが効かなくなる可能性もある状況です。
【症状3】ブレーキ警告灯の点灯
ブレーキ警告灯の点灯は、マスターシリンダー故障の初期症状として重要なサインです。この警告灯は、メーターパネル内に「!」マークが表示され、色によって緊急度が異なります。
一般的に、オレンジ色の点灯はブレーキシステムの異常を示唆し、赤色の点灯はより深刻な故障を意味します。パーキングブレーキを解除しても赤色警告灯が消えない場合は、マスターシリンダー内の圧力センサーが油圧不足や漏れを検知している可能性が高いでしょう。
この警告を無視して走行を続けると、突然ブレーキが効かなくなる危険性があります。警告灯が点灯した際は、速やかに安全な場所へ停車し、専門家による診断を受けることが重要です。
【症状4】ブレーキフルード漏れ
ブレーキマスターシリンダーからのブレーキフルード漏れは、エンジンルーム内のマスターバック周辺やボディとの継ぎ目部分で確認可能です。漏れたフルードは無色透明から薄い黄色で、独特の甘いにおいを放ちます。
ブレーキフルードは車の塗装を傷めるため、付着した場合は速やかに水やパーツクリーナーで洗い落とす必要があります。放置すると油圧不足によりブレーキが効かなくなる危険性があるため、漏れを発見したらすぐに専門家による点検・修理が重要です。
【症状5】ブレーキフルードの汚れ
ブレーキフルードの色や状態の変化は、マスターシリンダーの故障を見極める重要な診断ポイントです。正常なブレーキフルードは透明から薄い黄色ですが、マスターシリンダー内部のゴムシールが劣化すると、黒い斑点や濁りが現れます。
シールの摩耗により生じたゴム片や金属のさび、外部から侵入した汚れがフルードに混入し、濃い茶色や黒色へと変色させます。リザーバータンク内に小さな黒い粒子が浮遊している場合、マスターシリンダーの内部損傷が進行しているケースが多いでしょう。
ブレーキフルードは使用期間2年または走行距離2万km前後での交換が推奨されており、定期的な点検で汚れの程度を確認することが大切です。汚れたフルードを放置すると、ブレーキペダルがスポンジ状になり、制動性能の著しい低下を招きます。
ブレーキマスターシリンダーの点検・修理

ブレーキマスターシリンダーの故障を示す症状を把握したら、適切な点検と修理について考える必要があります。故障を放置すると重大な事故につながる危険性がある一方で、早期発見により費用を抑えた修理も可能です。
どのような点検を行い、いつ修理したらよいのか、また修理にはどの程度の費用がかかるのか、安全で経済的な対応方法について具体的に解説します。
ブレーキマスターシリンダーの点検方法
ブレーキマスターシリンダーの点検は、車両所有者でも実施できる簡易チェックと、専門家による詳細診断に分けられます。
自分でできる簡易点検では、まずエンジンルーム内のマスターシリンダー周辺をチェックしましょう。ブレーキフルードタンクにひび割れがないか、マスターバック(円形の部分)が湿っていないかを確認します。塗装の剥がれや変色も漏れのサインです。
一度拭き取った後、ブレーキペダルを数回踏んで新たに湿ってくる場合は、内部からの漏れが疑われます。また、フルードの色が透明から薄黄色以外に変色していれば交換時期です。
内部の油圧測定やシール状態の確認には、専門知識が求められます。ペダルの踏み応えに異常を感じたり警告灯が点灯したりといった症状が出たら、速やかに整備工場での診断を受けましょう。
ブレーキマスターシリンダーの修理時期と修理費用
ブレーキマスターシリンダーの修理は、症状の深刻度により適切なタイミングを判断することが重要です。
ブレーキフルードの漏れが見つかった場合は、放置せず速やかに修理することをおすすめします。先延ばしすると、制動性能の低下により重大な事故につながる可能性があるため注意が必要です。
修理には、内部部品のみを交換するオーバーホールと、本体ごと交換するアッセンブリー交換があります。
オーバーホールの場合、インナーキット6,000円程度、ブレーキフルード2,000円程度、作業工賃6,000円程度が目安です。アッセンブリー交換は1万5,000円~5万円程度と考えましょう。
ブレーキマスターシリンダーの故障で車が止まらない場合の対処法

ブレーキマスターシリンダーの故障により車が停止しないという事態が起きたら、適切な判断と行動で重大事故を防げる可能性があります。パニックに陥らず冷静な対処が生死を分けることもあるため、事前に対処法を知っておくことが重要です。
実際にブレーキが効かなくなった場合、どのような手順で対応したらよいか、詳しく解説していきます。
エンジンブレーキを使って減速する
ブレーキが効かなくなりスピードが落ちない場合、エンジンブレーキが最適な減速手段といえます。エンジンの回転抵抗を利用して車両を減速させる仕組みです。
まず、アクセルペダルから足を完全に離します。その後、AT車の場合はシフトレバーを「D」から「2」や「L」に段階的に変更し、MT車の場合は3速、2速へとシフトダウンしましょう。急激な操作は避け、エンジンの回転数を確認しながら慎重に行います。
ただし、エンジンブレーキはブレーキランプが点灯しないため、後続車への合図として軽くフットブレーキを踏み、危険を知らせることも必要です。
パーキングブレーキ(サイドブレーキ)を使って減速する
ブレーキが効かない緊急時には、パーキングブレーキを慎重に操作することで減速効果が期待できます。
手動レバー式のパーキングブレーキは、後輪に機械的な制動力を発生させる仕組みです。急激にレバーを引くと後輪がロックしてスピンする危険があるため、段階的に操作しましょう。
まずハザードランプを点灯させ、後続車に異常を知らせます。その後、レバーを数回に分けて徐々に引き上げ、車両の挙動を確認しながら制動力を調整しましょう。足踏み式の場合も同様に、少しずつ深く踏み込んでいく操作が必要です。
ガードレールや壁に車体をこすり付けて停車する
エンジンブレーキやパーキングブレーキでも減速が間に合わない場合、最終手段としてガードレールや壁に車体を接触させて止める方法があります。これは、重大な人身事故を防ぐために自車を犠牲にする最終手段です。
急激なハンドル操作を避け、車体側面を接触させるよう最小限の操舵で行います。可能な限り減速してから接触させることが重要で、乗員がいる場合はつかまるように声をかけ、シートに身を預けるよう指示しましょう。
車体の損傷は避けられませんが、より深刻な事故を防げます。周囲の状況を冷静に判断し、被害を最小限に抑える強い意志を持って実行することが求められます。
ロードサービスに連絡する
安全な場所に停車できたとしても、自力での運転再開は避けましょう。ブレーキの故障は制動性能に直結するため、専門的な修理が完了するまで危険が継続します。
まず、JAFや加入している自動車保険のロードサービスに連絡しましょう。連絡時には現在地の詳細な住所、ブレーキ故障の症状、車両の状態などを正確に伝えることが重要です。
ブレーキ系統の故障は内部損傷の程度によって対応が大きく異なるため、専門の整備士による診断を受けましょう。レッカー車による搬送を依頼し、信頼できる整備工場で詳細な点検を受けることをおすすめします。
まとめ

ブレーキマスターシリンダーは、ブレーキペダルの力を油圧に変換して各車輪に伝える重要な部品です。故障の症状として、ペダルの沈み込みや制動力の低下、警告灯の点灯、フルードの漏れや汚れが現れます。
ブレーキマスターシリンダーの故障は、内部のゴムシールやピストンの経年劣化、摩耗粉(スラッジ)の蓄積によるフルード漏れ、フルードの劣化などが原因です。不具合が見つかった場合は、放置せず速やかに修理を依頼しましょう。
ブレーキの故障により減速ができなくなった場合は、エンジンブレーキやパーキングブレーキを活用して安全に停車し、専門家による点検・修理が必要です。
【この記事の執筆者】

五十嵐巧
大手出版社での書籍編集を皮切りに、25年以上にわたり書籍・雑誌・Webメディアの編集・ライティングに携わる。現在はフリーランス編集者・ライターとして活動し、複数の自動車メディアでもコンテンツの編集・執筆に取り組む。豊富な取材経験と専門知識を活かし、読者に信頼される情報を提供し続けている。
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